※この記事は、2022年12月13日に開催した、ウェビナー「ファンがどんどん熱狂する! テレビ東京が挑戦するコミュニティマーケティング」の様子をまとめております。
株式会社テレビ東京 曺絹袖氏(以下、曺):私たちはファンコミュニティ事務局という部署で、「テレ東ファン支局」というテレ東ファンのためのコミュニティを運営しています。
私は報道経験が長く、ドキュメンタリー番組を作ったりディレクターをしていました。4年前にマーケティング部に移動してデータの分析などをしながらファンマーケティングを運営しています。
株式会社テレビ東京 今田智仁氏(以下、今田):私は2018年にテレビ東京グループに、テレビとは縁のない業界から転職してきました。放送よりも「ネットもテレ東」や「テレ東BIZ」といった配信サービスのマーケティングや、DMPの構築や、データ分析等を担当しています。ファンマーケティングに前から興味があり、テレ東ファン支局の立ち上げメンバーの一人として参加しています。
曺:テレビ東京はこんな番組をやっている局です。従業員は700名半ばで、他のキー局に比べると規模が小さい局です。
曺:テレ東ファンのためのオンラインコミュニティ「テレ東ファン支局」を立ち上げたのは2021年10月で、視聴者の方に「見る」以外の場所を提供するという目的で始め、ファンの方に喜んでもらえる情報を発信をしています。またテレビはどうしても一方通行の情報提供になってしまうので、テレ東ファン支局ではファン同士のコミュニケーションを活発にできる場として利用しています。
また、テレ東ファンの方はテレビ東京に対して強い応援の気持ちを持っていることが多く、応援を形にする場として提供しています。
曺:無料の会員登録制で運営しているのですが、登録しなくても見れるページが多いのでぜひ見てみてください。
スタッフやアナウンサーが個人名で発信しているのが特徴で、それを見たファンの方がコメントや返信をしています。
ファンの方と一緒にイベントやグッズを開発するなど、共創にも力を入れています。
曺:会員数は今2万人を超え、女性が6割くらいでドラマファンが多いのですが、登録しないと読めない個人連載が好評です。コメント数もとても多く、アクティブ率も高いです。その理由の一つとして、ファンの方が参加できる企画をたくさん用意していることがあげられます。ここに関しては後ほど詳しくお話しします。
曺:このコミュニティは「テレ東ファン支局」と謳っていることもあり、非常にテレ東への熱量が高いファンの方が集まる場所になっています。1周年の時に外部のパネルとファン支局に同じ質問して回答を比較したのですが、好感度「大好き」が当たり前で、ファン支局参加者は「愛がある」という表現にも共感してくれています。視聴頻度やNPSも大きな差がありました。
曺:それだけではなく、もともと熱量が高い方をコミュニティに招待しているのにも関わらず、視聴頻度がより一層増えたり、グッズを買う機会が増えたり、SNSで拡散してくださると言ったデータも出てきおり、更に熱量を高められています。
今田:みなさんご存知の通りテレビ離れがどんどん進んでいることからコミュニティの取り組みをはじめました。YouTubeやAbemaTVなどメディア・エンタメが多様化し、テレビ以外のエンタメを楽しむ層が増えてきたことから、テレビ局の中でも何かをしないといけないという話がされていました。
その中でコンテンツの視聴ではなく、テレビを含めたエンタメを楽しむ場をファンに提供した方が良いということで、コミュニティが適しているのではないか?という話が出てきました。
今田:テスト的に行ったファンミーティングで、ある女性に「ドラマが好きで好きで仕方がないが、熱量の受け皿がテレビ局にない。仕方なくグッズを買うけれど、熱量をぶつける場が欲しい。」ということを言われたのがとても印象的で、自分達が思っている以上にファンの方がいて、その方々が楽しむ場としてコミュニティを作った方が良いのではないかという意見が出てきました。
実際コミュニティをやると、先ほどのデータにもあったように、視聴自体の増加傾向が見られています。更に、ファンコミュニティから収益を上げる計画は一切していなかったのですが、結果としてグッズや関連事業の収益も拡大してきています。
今田:ファンマーケティングを始める際に社内でも話題になった疑問があります。皆様の会社でも当てはまるかもしれませんが、「企業のファンなのか、ブランド・サービス、テレ東でいうと番組のファンなのか」という疑問です。「テレ東大好きです!」と言われて「どんな番組観てますか?」と聞くと他局の番組を言われることも結構あり、本当に局のファンはいるのか?というのが謎でした。
ただ、大規模なアンケートをとった中で、「テレビ東京という局のファンか、特定の番組のファンかどちらに近いですか?」という設問では、局のファンという回答が多くあり、また、個別の番組は1クールで終わってしまうことも多く、将来的にも局全体のファンを醸成していく方が良いということになりました。
以上がコミュニティを作った背景になります。
コミューン株式会社 須藤美幸(以下、須藤):ファンマーケティングの戦略設計について教えてください。
今田:戦略設定として最初に「ファンコミュニティは何を目指すのか」というのをみんなで会話をしました。一番納得して早く決まったのは、「テレビ東京のファンの全体の熱量を上げる」のを目的にしようということでした。そこから、「全体の熱量」とは何なのかを分解して定義をしようとなりました。単純ですが、「人数を増やさないといけない」というのと、「一人あたりの熱量を高めないといけない」の2つに分けて、それを掛け算すると総熱量が上がるということで、コミュニティ立ち上げ初年度は人数をとにかく増やすというところに注力しました。
今田:次に「ファンとはなんぞや?」というのが出てきた課題でした。ファンと気軽に言っているのですが、「視聴」「行動」「選好」の3つをベン図にして、どこに重なる人がファンなのか?というのを我々の中で定義しました。
「視聴」とは、放送だけなのか、DVDで見る方はファンなのか?など色々な定義があったり、その辺はものすごく時間をかけました。
「選好」はわざわざテレ東を選んで観てくれている人のことで、チャンネルをザッピングして面白そうだから観てくれる人ではなく、あえてテレビ東京を選んでくれている人をファンと定義した方が良いのではないかだったりを検討しました。
「行動」に関しても、SNSでのシェアやグッズを買う、イベントに来てくださるなど様々なパターンがあります。
その中で、長時間試聴だけしている人をファンと呼ぶのか、それとも視聴時間は短いけれどSNSで発信してくれる人がファンなのか、その辺の定義は細かくディスカッションし、かなりの時間を費やしました。3つの行動のベン図を作って、ここの重なる人はファンだよね、ここは違うよね、などいろんなファンの定義をまず最初にしました。
ファンを定義した後に、コアファンになるまでのジャーニーマップを作りました。
最初はザッピングして面白いとなり、次に「面白かったから来週も見よう」「配信でやっているかチェックしよう」と、好きで観るようになるのが次のステップです。その後、愛着になったり、人におすすめしたり、実際にイベントに行く、グッズを買うなどファンを更に深く5段階に分けたジャーニーマップを作りました。このように、大規模な調査で定義、仮説立て、検証を戦略設計で最初にやりました。その後、細かいアンケート調査から、テレビ東京に対するイメージをステージごとに明らかにしたり、次のステージにいくにはどうすれば良いのかというのを検証し、数値を可視化していきました。これらをすることによって、社員がそれぞれ違うイメージをしていた「ファン」を、「これがテレビ東京のファン」と明文化できたり、共通の定規で測りながら仕事ができるようになったので、最初に戦略設計をちゃんとしてよかったです。
須藤:ファンの定義はとても大事ですね。ファンと言ってもプロジェクトメンバーごとにちょっとずつ違うイメージがあったりするので、最初に入り口の部分を揃えたのは素晴らしい取り組みだと思いました。
須藤:続いてファンマーケティングにおけるメディアの使い分について教えてください。
曺:私たちはメディアなので、この図の一番下に放送があるのですが、その放送も含めたピラミッドのどの方をどのメディアでフォローしていくのかというのを描いてメンバーで共有しています。
自社HPは番組関連の訪問者が非常に多く、月数千万のPVがあるので、自社のオウンドメディアの中ではもっとも広くリーチしています。番組に興味関心があってHPに来てくださっているので、ピラミッドの一番下に定義しています。
また、「集まれテレ東ファン」という名前のTwitterアカウントでは、制作者の顔を知ってもらうことで愛着を感じてもらいたいという思いから、ファン支局のコンテンツも含めて番組のウラ話を発信しています。また、ファン向けイベントも数多く開催していまして、番組を見ながらスタッフがウラ話を配信で話したり、ファンミーティングでコアなファンの方を集めるイベントも開催しています。
ピラミッドの一番上にあるのが、今運営しているコミュニティ「テレ東ファン支局」なのですが、こちらのコミュニティは完全に双方向でコミュニケーションを取れるので、テレ東を応援したいというファンの方へ、私たちと一緒にもっと盛り上げていきましょうという気持ちで運営しています。
須藤:テレビもSNSもPush型の情報発信ですが、双方向のコミュニケーションになり不安などありましたか?
曺:めちゃめちゃありました。「テレビ東京が好きです」という方は取材先の方や、タクシーの運転手の方などによく言っていただくのですが、本当のテレ東ファンの方がどのような人なのかはよくわかっていなかったのです。なので、初めてお会いするファンミーティングの時はものすごく入念に準備したしとても緊張したのですが、実際にファンの方にお会いしてみると、テレ東をすごく好きという気持ちで来てくださるので、99.9%のことが杞憂に終わりました。
須藤:続いて、ファンプロジェクト・コミュニティ施策の社内の巻き込み方について教えてください。
今田:一番最初は外部の講師の方に、社内向けにファンマーケティングの重要性をデータも含めてプレゼンしていただきました。経営陣も含めて全社で聞いてくれていたので、ファンマーケティングへの理解という下地ができたと思っています。その上で経営陣にやりたいことをプレゼンし、部署化できたのが大きかったと思います。社長もファンマーケティングに期待してくれていました。
あとは組織化したことにより、異動や兼務で名前が載ると「こんな部ができたんだ」と興味を持ってくれ、早めに社内の公用語になったのがよかったです。
名刺にも兼務と書いているので、名刺交換した人から「私もファンなのですが、ファンマーケティングは何をやっているのですか?」と聞かれることもありました。
曺:一方、とても地道なこともやっています。「中の人ファイル」というコンテンツがあり、テレビ東京のスタッフが一人ずつ登場していてすでに90名くらい投稿しています。700名の社員なのでもう1割くらいの社員が参加していることになります。あとは配信のイベントやファンミーティングなどは全社にメールして、興味がある人を募り、参加してもらっています。一回何かに参加してもらうと、こういうことをやっているのか、と実感を持って理解してくれるので、社員を巻き込むコンテンツや投稿は大きかったと思います。
今田:今までPushで情報を流していたので、ファンの顔をちゃんと見れている人は全然いなかったのですが、裏配信で局員も出ることによってファンの声を直接聞くことができると、みなさんものすごく嬉しいみたいで、ファンと繋がるのはこんなに楽しいんだ!と思ってもらえたのも大きいです。
曺:ファンミーティングは参加者がみんなテレ東のファンなので、とても褒めてくれます。こんなに褒めてもらった経験がないというほど褒めてもらえるので、局員のモチベーションアップに繋がり、良いことやっているね、という評価になりやすいですね。
須藤:私も一度ファンミーティングに参加したのですが、会場の外で社員の方が覗いている姿をみて、社員の方もファンはどのような方なのかを気にしていて素敵だと思いました。
須藤:現在2万人のコミュニティに育ってきている中で、社内の変化はありますか?
曺:1周年を社内に報告するといろんな人が気にしてくれるようになりました。最初にプレオープンした時は20人だったので、社内に原稿の協力などをお願いするのも心苦しかったのですが、2万人を超えてくると社内へのお願いがしやすくなったし、協力も得やすくなりました。
須藤:今後の展望について教えてください。
曺:先ほど申した通り、私たちはコミュニティを中心に添えながらSNSも運営しているのですが、ファンマーケティングとしては放送、配信、イベント・グッズ、メタバースといった色々なツールの中でファンの方とより深く繋がっていきたいと考えています。
曺:例えば放送のドラマをファンの方と一緒に作ることもできれば良いですし、ファン支局の中で「グッズ開発会議」としてファンの方にどんな番組のグッズが欲しいかアンケートを行い、上位5番組についてイベントを開催し、来年3月以降にグッズを販売する企画が進行中です。
また、ファン支局が1周年の時にオンラインイベントを開催したのですが、そのイベントのコンテンツをファンの方と一緒に考えたり、チラシをファンの方がデザインしてくれたり、カンペを出すのもファンの方にお願いしたりしました。こうした試みをどんどん広げていきたいです。
2024年はテレビ東京が開局60年になります。今までファンの方に育てていただいて応援もしてもらっているので、そこでファンの方と大きいことができたらなと思っています。
須藤:先日commmuneを導入してくださっている企業様向けのコミューンアワードを開催(https://commmune.jp/blog/202212230144/)したのですが、テレビ東京さんはコミュニティ共創部門で表彰されました。5番組のグッズ制作が同時に進んでいてすごいですね。今後の共創の取り組みも楽しみです。個人的に気になっているメタバースについて少し教えていただけますか?
曺:池袋ミラーワールドというのを運営していまして、そこの中でファンの方に喜んでもらえる施策を来年度以降展開していければというのを考えています。
Q. どのくらいのメンバーを巻き込んでファンの定義を作ったのですか?
今田:コアで話し合うメンバーは3〜5人に絞り、少人数で打ち合わせをして資料を作りました。それをプロジェクトメンバー10名ほどに当ててみて、あーでもない、こーでもないとフィードバックをもらって、またコアメンバーで話し合って、というのが続きました。そのタイミングでコロナ禍に入り、なかなかリアルでは集まれなかったです。振り返ると、どうしても人によってファンの定義が違うので、熱意を持ってリードしていく人が3人くらいいたことがよかったと思います。
Q. 冒頭で仰っていた「熱量」とはどのように測ってますか?具体的に、どのような指標を見ているのでしょうか?
今田:commmuneのコミュニティ内では、アクティブユーザー数、アクション率、アクティブ率、いいねなどのリアクションをしたエンゲージ率などをわかりやすい指標として置いています。ただ、熱量をどう定義してよいかは難しく、今でも私たちの中で議論は続いていて、来年度の目標やKPIをどうするかという議論の中で出てきています。NPSで測ったり、アンケートを取ってNPSと掛け合わせてオリジナルの指標を作った方が良いのではないかなど、実験しながら作っています。
曺:コミュニティを立ち上げて最初の1年は、一旦人数×熱量をコミュニティに落とし込んでKPIとしていました。コミュニティの人数とアクション率をみてきたのですが、コミュニティ外も含めてどうするのかというのは来年度に向けてまさにこれから話し合うところでした。
Q. グッズ開発など、ファンと共創する際に注意しているポイントなどはありますか?
曺:ファンの方とグッズを共創する際は、できるだけ熱量の高い方に参加していただくというのは大前提です。そんなにファンでない方を集めても良いものはできないと思っているので、熱量の高い方に参加していただくようにしています。逆に熱量の高い方を集めるので、絶対にファンの方を裏切ってはいけないという思いが強くあります。裏切らない、期待に必ず応えるように運営していくのが一番大事なポイントだと思います。
Q. 他部署に還元できることを明確にして、社員に協力を仰ぐことはされていましたか?立ち上げの際に、他部署の協力が得られるかが不安な点です。
曺:私たちは特に特定の部に協力してもらいたい・還元できるというのはなかったですが、「テレ東ファン支局」と謳っているので、「テレビ東京全体にメリットがあります」というように各部署を説得していました。ファン支局を作ることでこんなことが考えられます、だから必要なんです、といったデータを使ったロジカルな説明をしました。あとは、外部の知見をフル活用する、外部の人に言ってもらうということも大きかったです。なんとなく始めたいと言うと、これ以上キャパシティがないという反応になるので、ロジックでこういうデータが出ているので今必要なんですという説得をする一方で、コミュニティマーケティングやファンマーケティングを先行事例としてやられている外部の方に社内で講演会をしてもらいました。
Q. NPSは、コミュニティのNPSを計測してるのでしょうか?それとも、テレ東自体のNPSをはかっているのでしょうか?
テレ東自体のNPSです。コミュニティをテレ東に還元させるという目的を掲げているので、テレ東をゴールに設定しています。
お話を聞かせていただいた曺さん、今田さんありがとうございました!
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