※この記事は、2022年11月29日に開催した、ウェビナー「老舗出版社 学研が取り組む 読者を根強いファンにするオンライン戦略とは?」の様子をまとめております。
株式会社Gakken 橋爪美紀氏(以下、橋爪):Gakkenグループは1964年に創業し、日本の教育を支援する事業を行っています。現在は教育の事業が売上の約半分強ですが、医療福祉の事業も展開しています。
「学研の科学」を含む出版事業は今まで「学研プラス」という名前だったのですが、2022年10月にグループの一部事業が統合し、アルファベットのGakkenとして新たにスタートしました。
橋爪:「戦後の復興は、教育をおいてほかにない」という創業者の信念にもとづき、ふろく付きの「学習」という雑誌を創刊したのが始まりです。個人が使える実験キット(ふろく)がついていることが大きな特徴で、戦後の家にも学校にも手を動かして実験するという設備がない時代に、実験の機会を一人一人に提供したいという思いで始まりました。それが大人気になり、1979年には合計発行部数670万部を記録し、当時の児童数1,200万人の半数くらいに購読していただいてる商品になりました。その後、絵本や学習参考者、図鑑、大人向け雑誌メディアなどを出版しています。
橋爪:しかし2010年3月に休刊になってしまいました。歴代のふろくがサイトにまとめてあるので、よろしければご覧ください。懐かしいものが見つかるかもしれません。https://www.gakken.co.jp/campaign/70th/furoku/
橋爪:休刊の12年後の2022年に「学研の科学」が復刊しました。
なぜ休刊、復刊したのかというのは、新しい「学研の科学」のステートメントに書かれている通り「わからないことに出会ったとき、何が正解か迷ったとき。まず自分の手を動かしてみる。思い切ってやってみる。そんな子どもたちを増やしたい。」という想いに尽きます。休刊している間にも、私たち編集部にはこの想いがありました。情報が溢れている今の時代、バーチャルで自分が経験した気になるコンテンツもたくさんあるのですが、こんな時代に改めて自分自身の手で思考錯誤して問いを見つける、答えを見つけるという体験が今の子供たちこそ必要だと感じ、復刊に繋がりました。
創刊当時とこれまでとは時代背景も異なりますし、今は学校の理科室にはすごい実験器具があり、科学学習は必要とされなくなってしまったというのはあると思います。
それだけではなく、ふろくの意味は何かというところも見失ってきていたというのも反省です。ドラえもんやしまじろうなど増え続ける魅力的なキャラクターとの競争を意識してしまい、科学の本質を学ぶという本来の目的からズレてきてしまったということもあると思います。今回の復刊にあたり、このような反省を踏まえて、「科学の本質を体験する」ということと、ステートメントにある「正解のないキットで」というところに立ち返りました。
正解のレールが敷かれているものではなく、いろんなことを試してみることができる、その余地が残されているキット。ただのおまけでもない、おもちゃでもない科学の体験のキット、というのが本質であるということに立ち返って、学研の科学をもう一度世に提案してみようというのが復刊の動機です。
新しい学研の科学はこの4つの内容からできています。①命となるキット、②使い方や広がる科学の世界を解説している本誌、③「〇〇のひみつ」というひみつまんが、④オンラインコミュニティです。
時代の大きな変化によって科学と学習は必要なくなってしまったという話をしましたが、もう一つ時代の大きな変化としてコンピューターやコミュニケーション技術の発達というものがあります。それを使うことで、かつての科学にない、新しい科学の発見を提供できるのではないかと考え、「学研科学あそぶんだ研究所」、通称「ぶんだ研」というオンラインコミュティを立ち上げました。
橋爪:コミュニティの目的は、編集部と、そして世界の友達と”科学”というキーワードで繋がることです。目的を少し細かくドリルダウンすると3つあります。
一つ目は、個人体験から共有体験へ。これがメインの目的で、ユーザー同士でキットでこんな体験をしたよ、実験したよ、というのを共有し、いいねをもらったりして褒め合うという体験を提供したいと思っています。承認・成功体験を支援することで、次のトライに繋がったり、科学を好きになるきっかけになるのではないかと考えています。もちろん編集部と読者の繋がりというところも深めていければなと思っています。
二つ目は、充実した”学研の科学”ライフということです。使い方の動画の他に、月食などの天体情報や、ノーベル賞など本には落とし込めないその時々の旬なトピックスのコンテンツを追加していきます。
三つ目は、ビジネス的な観点での目的で、継続購入につなげるということです。
橋爪:その目的に即して、ぶんだ研ではオンラインワークショップやイベントに無料で参加できたり、本誌と連動した動画や本誌のテーマとは離れたオリジナルの動画が見れたり、世界のみんなと楽しくおしゃべりができます。commmuneの機能を活用し、いいね、コメントなどの活動をすることでポイントとバッジをゲットすることもできます。
橋爪:初期登録は本からの誘導がメインです。本誌を購入しなくてもコミュニティに参加することはできますが、コンテンツの内容は本誌が手元にあることを前提に作っています。本誌の一つ一つのコンテンツにQRコードを設置し、そこから直接コミュニティに飛ぶことができます。組み立て方、使い方の動画に飛んでキットを作ったり、本誌の問題の答えをぶんだ研内で確認できるという形になっています。
初期は本誌からだけだとなかなか集客できなかったので、大規模なオンラインイベントを開催しました。元日本テレビのアナウンサーで、今はサイエンスコミュニケーターの桝太一さんをお迎えして、海の生き物に関するYoutube Liveを行いました。結果として多くのお客様にお申し込みいただき、大盛況のイベントになりました。
橋爪:投稿の促進施策としては、毎月テーマを設定した投稿ミッションという企画を行っています。8月のテーマはキットに関連したもので、水素エネルギーロケットの爆発を撮影しようというものでした。手回し発電機で水を分解してロケットを発射させる仕組みのキットの、発射の瞬間の爆発を撮影するという難易度の高いミッションでしたが、たくさんの投稿がありました。投稿の数ももちろん嬉しいのですが、一人一人がこの一瞬に集中して撮影するために何度も何度も失敗しながら、爆発の光が綺麗に撮れるように部屋を黒くしたり工夫してくれたことが伺えて嬉しかったです。
学研の科学の目的は、夢中になって試行錯誤しながら問いに向き合う体験を提供することなので、それが実現できているのではないかなと思います。
橋爪:他にも、動画を撮影しているお父さんの興奮した声が入っていたり、失敗しても共有したくなるような動画だったり、編集部の想像を超える独自の遊び方の動画がたくさん投稿してあり、これ読者のリアルの姿なんだなと学びになりました。
いかに編集部が用意した回答から外れたものを出すかというトライが最も楽しくて、イノベーションに繋がっていくのではないかと考えています。このトライを見た他の子供も触発されて、用意された正解ではないことに挑戦してみようという流れが生まれるといいなと思っています。
今後新たなキットを開発していく上で、読者が何に興味を持つのか、何に躓くのかといった解像度の高い読者の理解が非常に大事で、そのための情報を得られるというのがこのコミュニティの最大のメリットだと考えています。
コミューン株式会社 須藤美幸(以下、須藤):コミュニティに入ってもらう工夫とユーザー数増加と接点継続の工夫についてお聞きしたいです。ユーザー数増加と接点継続について主にお話ししていただけますか?
橋爪:イベントの部分について詳しくお話ししますね。初期の集客がすごく重要なポイントだと思ったので、そこに力を入れていました。先ほども少しお話しした桝太一さんとの海の生き物のオンラインイベントは、commmuneのイベント機能を使って参加者を募集しました。本誌の購入者以外も参加できるのですが、応募はコミュニティ内でしかできない導線にしました。告知は公式SNS、広告、プレスリリースを打ち、集客しました。
ぶんだ研の投稿の促進のために、動画をみて海のかけらを自分で拾ってきてくださいとお願いし、それに使えるサポートシートも用意するという仕組みを作ったところ、皆さん近くの海に出かけて写真を投稿してくれました。投稿に対して編集部が海の生き物の種類の特定までするという大変なこともした結果、大変盛り上がりました。「配信中に桝さんが取り上げて紹介や解説してくれるかも」ということで積極的に参加してくれたのかもしれません。実際にやってみると生配信の視聴者数が1,000人以上に登り、途中離脱者もほとんどなく最後まで見てくれました。満足度も非常に高いイベントになり、このイベントが集客に繋がった一番の理由かと思います。
須藤:私も配信イベントに参加していたのですが、実際に配信でコミュニティの投稿が取り上げられるので、「自分の投稿が取り上げられて嬉しい」と言った反応もありましたね。コミュニティと別のチャネルを組み合わせているのが素敵でした。追加でお聞きしたいのですが、公式のSNSの発信とコミュニティの中での発信の棲み分けなどあれば教えてください。
橋爪:SNSは基本的にはこちらから情報の発信を一方的にする告知の場になっていますし、子供自身が投稿できないので、保護者の方の投稿がメインです。コミュニティの方はコンテンツ自体も子供向けで、子供が投稿してくれる場になっているので、投稿が一方通行ではなく投稿のテーマに返信してくださいという形で子供とのコミュニケーションが取れます。10月からは、しりとりを始めて100件以上のコメントでしりとりが続くなど、参加しやすい投稿ができるようになったので、より密なコミュニケーションをとれるのが大きな違いだと思います。
須藤:コミュニティの目標設計や成果・効果をどう見ているのかというのを差し支えない範囲で教えてください。
橋爪:コミュニティの長期的なKGIは、「学研の科学」の継続読者の最大化です。創刊号は7月に発行していて第二弾が12月発行予定(イベント開催時)なので、続けて買っていただくのが大きな目標の一つです。Gakkenでは興味関心に基づいた単発の雑誌を発行することが多いのですが、このシリーズは継続して買って、科学の楽しさに気づいてほしいので、第二弾が出た時に第一弾を購入してコミュニティに入った方が引き続き投稿してくれることが理想で、そこの数値を見ていきたいです。現在コミュニティでの第二弾の告知のリアクションも良くて期待してくれているのは感じています。
須藤:ここまでコミュニティを運営している中で、嬉しかったエピソードや気づきなどあれば教えてください。
橋爪:本を作っている側としてはエンドユーザーの顔を見るのが難しかったのですが、今回コミュニティを通じて読者の顔、しかも動いている動画で見れると言うのがすごく嬉しく、貴重な体験でした。
須藤:直接投稿をみたり、イベントでお会いできるのが貴重な機会ですね。続いてコミュニティの運用体制や、日々の活動について教えてください。
橋爪:イベントカレンダーを用意し、動画がアップされる日やワークショップがある日が活動のある日です。基本的には編集部がコミュニティを運営をしていて、本を編集する傍ら活用しています。コミュニティ専任メンバーは0人です。イベントは大体コミュニティリーダーを1人たて、もう2人の計3人でコンテンツを作っています。他の編集部員も投稿したり、大体6名くらいでコメントを返したり、「今日は月食だよ」などの日々の情報発信やコミュニケーションをしています。
Q. 必然的に読者の親御さんを巻き込むかたちになると思いますが、親御さんが進んでコミュニティに入って貰えるような工夫もされていますか?
橋爪:登録する際に、必ず親御さんが登録する必要があります。弊社の学研IDを通して本名などの個人情報をいただいた上で登録・参加していただけるので、子供だけでコミュニティに入っても大丈夫という安心感があるかなと思います。基本的にSNSは親御さんが見て応募するので、親御さん向けの広告や告知をしています。
Q. オンライン施策として、当初はイベントとコミュニティどちらを起点に考えられていましたか?
橋爪:明確にコミュニティです。コミュニティを楽しんでもらうためのイベントにしたいと考えています。一番最初はコミュニティに人を集めないといけないので、集客のためのイベントを開催しましたが、基本的にはコミュニティに入ってもらいチームとして楽しめることを主眼においていこうとしています。やはりワンタイムのお客様ではなく、継続して楽しんでいただけるお客様を獲得することが大きな目的だからです。
お話を聞かせていただいた橋爪さん、ありがとうございました!
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