コミュニティマーケティングとは、企業が、自社ブランドのコミュニティを形成することを通じて、高いロイヤルティを持つファンを増やす取り組みを指す概念です。
コミュニティマーケティングのコンセプト自体は新しいものではありませんが、近年、再注目されています。
世界的なマーケティング先進企業から始まって、日本国内でも、コミュニティマーケティングに取り組む企業が増えている現状があります。
この記事では、今だからこそ知っておきたい「コミュニティマーケティング」について、以下をまとめました。
・コミュニティマーケティングとは何か?基本の知識
・現在、重要性が増している理由
・具体的な実践のポイント
コミュニティマーケティングについて学び、いち早く取り入れることで、中長期的な収益基盤を築くことができます。この記事から、そのヒントを持ち帰っていただければと思います。
まずは「コミュニティマーケティング」の基本事項から解説していきます。
コミュニティマーケティングとは、自社ブランドの「コミュニティ」を形成するマーケティング戦略のことです。
ここでいうコミュニティとは、自社ブランドと顧客、あるいは顧客同士が交流する場や、そのグループ集団を指します。
イメージしやすいように具体例を挙げると、コミュニティマーケティングの先駆者として、世界的に有名なブランドに「ハーレーダビッドソン」があります。
1980年代のハーレーダビッドソンは消滅の危機に瀕していましたが、2000年代には世界トップ50のブランドとして復活を遂げます。
ハーレーダビッドソン再建のカギとなったのが、ブランドの熱烈な支持者グループであるブランドコミュニティの構築に取り組んだことでした。
それが、1983年に設立された「ハーレーオーナーズグループ(H.O.G.)」です。
▼ ハーレーオーナーズグループ(H.O.G.)
現在では、世界中に1,400以上の支部があり、ハーレーダビッドソンの愛好家たちが集まってバイクについて語り合っています。
▼ H.O.G.ジャパンのおもな活動
・ツーリング
・ミーティング
・各種オフィシャルイベント
・ファーストエイド講習
・海外のH.O.G.メンバーとの交流
・その他
参考:Getting Brand Communities Right
ハーレーダビッドソンの例からもわかるとおり、コミュニティマーケティング自体は、古くから存在するマーケティング手法です。
しかし、2020年代の現在、マーケティングのホットワードとして再注目されています。
たとえば、Forbesの2022年3月の記事では、以下のとおり指摘されています。
〈コミュニティは、単に2022年のマーケティングの流行語ではない〉
〈コミュニティマーケティングは 、今後10年で、最も大きく成長し、投資される分野の1つになると予想される〉
今、マーケターが力を入れて取り組むべき分野は、コミュニティマーケティングなのです。
こちらの資料では、より詳しい定義と、コミュニティ施策を取り入れる主な目的4つを紹介しています!
では、なぜ今、コミュニティマーケティングなのでしょうか。その背景に挙げられるのが、以下3つのポイントです。
・加速する広告離れと新規獲得コストの高騰
・既存顧客の維持(リテンション)を重視した戦略への方向転換
・顧客が求めるブランドとの関わり方の変化
それぞれ、見ていきましょう。
1つめの理由は「加速する広告離れと新規獲得コストの高騰」です。
Z世代を中心として、広告を敬遠する流れが加速しています。
たとえば、2017年の米国の調査では、
〈Z世代の82%が広告をスキップし、半数以上が広告ブロッカーを使用している〉
と指摘されています。
ユーザーの広告離れは、広告主企業に「広告の費用対効果の悪化・新規顧客獲得コストの高騰」という形で、ダメージを与えました。
2022年より、広告事業を展開するMeta(旧Facebook)やAlphabet(Google)の業績減速が目立っていますが、これも同じ文脈で説明できます。
広告効果の低迷により、企業が広告への投資を控え、予算を他のマーケティング施策に振り替えている、ということです。
出典:Revenue Of Alphabet And Meta The ‘Digital Duopoly’ Have Been Slipping
2つめの理由は「既存顧客の維持を重視した戦略への方向転換」です。
広告による新規顧客獲得に投資されていた費用がどこへ回ったのかといえば、既存顧客を維持するための施策です。
顧客ロイヤルティ、エンゲージメント、カスタマーリテンション、リレーションシップ——などのワードを、よく聞くようになりました。
根底に共通するのは、
「既存顧客との長期的な関係性を築くことで、LTV(顧客生涯価値)を向上する」
という概念です。
コミュニティマーケティングは、有力なLTV向上施策のひとつとして、位置づけられます。
3つめの理由は「顧客が求めるブランドとの関わり方の変化」です。
単なる消費者として企業と接するのではなく、価値観を共有し、ときにはディスカッションをして、より深い関わりを望む顧客が増えています。
コロナ禍である2021年12月に、Forbesに掲載された記事には、
〈顧客は、お気に入りのブランドが自分たちの声を聞き、認めてくれていると感じるべきであり、リアルなコミュニケーションはこれを促進するのに役立ちます。〉
と説明されています。
出典:Social Media’s Important Role In Creating Long-Lasting Digital Connections
顧客とブランドとのコミュニケーションのあり方が、変化しているのです。
たとえば、SNSを見てみても、「企業とお客様」の間で、カジュアルかつ双方向なコミュニケーションが確認できます。
サブウェイの公式Twitterのプロフィールには「『話せる公式』を意識し毎日皆さんの投稿を探してお話し。」とある通り、実際にTwitter上でユーザーとカジュアルにやりとりしている様子が見られます。
上記事例以外にも、企業と顧客が一種の仲間のように同じ目線で交流するシーンが増えており、コミュニティマーケティングへの布石となっています。
コミュニティマーケが「今」高まるのはなぜなのか、こちらの資料では、5つの観点を踏まえてより詳細に解説します。
コミュニティマーケティングへの取り組みによって期待できる成果として、以下が挙げられます。
・マーケティングROI(投資利益率)の向上
・顧客ロイヤルティの向上
・良質な新規顧客の獲得
・希少な行動データやVOCの獲得
ひとつずつ見ていきましょう。
まず挙げられるのが、「マーケティングROI(投資利益率)の向上」です。
多くの場合、広告展開や認知度向上キャンペーンなどのマーケティング施策と比較して、コミュニティマーケティングのほうが相対的にコストを抑えられ、かつ収益性が高くなります。
前述のとおり、新規顧客コストの高騰が重い負荷となってのしかかる現在では、コミュニティマーケティングのROIの高さを実感する企業が多いでしょう。
よくいわれるのが「1:5の法則」や「2:25の法則」です。
・1:5の法則
新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかるという法則
・2:25の法則
顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善されるという法則
出典:「1:5の法則」「5:25の法則」とは?メカニズムから実用の注意点まで徹底解説!
実際、先にご紹介したハーレーダビッドソンの例では、 〈H.O.G.のメンバーは、他のハーレーオーナーよりも30%多く購入する〉 といわれます(参考:Brands and Branding)。
少ないコストでより大きな成果を上げるために、コミュニティマーケティングが有効です。
2つめは「顧客ロイヤルティの向上」です。
前述のROI向上とも結びつくポイントですが、コミュニティマーケティング施策は、顧客ロイヤルティを高めます。
顧客ロイヤルティとは、直訳すると「顧客の忠誠心」という意味です。
顧客がブランドに対して抱く、愛着や信頼などの感情を源泉として、「ずっと、このブランドを愛用し続けたい」と思う気持ちが、顧客ロイヤルティです。
コミュニティマーケティングによる収益は、基盤に顧客ロイヤルティがあるため、一過性ではありません。
広告のように短期的な売上獲得ではなく、中長期的にブランドを支え続ける顧客ロイヤルティを醸成するという点で、コミュニティマーケティングは非常に高い価値をもたらします。
3つめは「良質な新規顧客の獲得」です。
……と聞いて、
「新規顧客ではなく既存顧客をフォローする手法なのに、なぜ新規顧客を獲得できるのか?」
と疑問が浮かんだかもしれません。
じつは、コミュニティマーケティングは、新しい顧客を増やすうえでも、重要な意義があります。
ブランド論の権威であるデービッド・アーカーは、高いロイヤルティを持つ顧客の真の価値について、
〈その顧客自身から得られる収益よりも、他の人々や市場に与える影響にある〉
と述べています。
たとえば、友人が他のパソコンを買って損しないように多大な努力をするMacユーザーや、ハーレーのロゴマークをタトゥーとして身につけ仲間を集うライダーなど、熱心なロイヤル顧客たちは、新しい顧客を連れてくるのです。
最後に4つめとして挙げられるのが「希少な行動データやVOCの獲得」です。
コミュニティ内での顧客行動に関するデータや、コミュニティで生まれる会話から得られるVOC(Voice Of Customer:顧客の声) は、顧客インサイトの宝庫です。
実際に、米国ではリサーチを目的としてコミュニティを構築するMROC(Market Research Online Community:エムロック)という手法が定着しているほど、コミュニティから得られる洞察には価値があります。
※MROCについて詳しくは「コミュニティがユーザーリサーチに最適な3つの理由 リアルタイムで深いインサイトを取得したい方必見!」にて解説しています。
コミュニティマーケティングの実践は、大きく以下3つに分けられます。
・オーガニックコミュニティのサポートをする
・企業運営のコミュニティサイトを構築する
・SNSでコミュニティを広げる
以下で詳しく見ていきましょう。
1つめは「オーガニックコミュニティのサポートをする」です。
オーガニックコミュニティとは、企業が関与しておらず、自然発生的にそのブランドのユーザーから生まれたコミュニティを指します。
熱狂的なファンを持つ優れたブランドほど、オーガニックコミュニティが生まれています。
まずは、自社ブランドにオーガニックコミュニティがないか、探すところから始めてください。
▼ オーガニックコミュニティが形成されている例
・ロイヤル顧客が新商品紹介や使い方動画などを投稿するYouTubeチャンネルを運営しており、そこに視聴者がついて対話が生まれている
・有志によって愛用者が集うサイトが構築され、コメントのやり取りで交流している
・Facebookのグループ機能でファングループがある
オーガニックコミュニティが見つかったら、「そのコミュニティのサポートをできないか?」という視点で、施策を考えてみます。
コミュニティのリーダーとつながったり、コミュニティで求められていることを実現したり、といった具合です。
オーガニックコミュニティの様子を観察し、ユーザーが何を話し、何を期待しているのか、何に困っているのか知ることが、非常に大切です。
自社ブランドのコミュニティマーケティングの方針を決めるうえで、重要なヒントを与えてくれます。
2つめは「企業運営のコミュニティサイトを構築する」です。
この手法は、近年のコミュニティマーケティングの主流になっているやり方で、多くのブランドにとって適合性があります。
SNSとは別に、自社運営のプラットフォームで、専用のコミュニティサイトを構築します。
自社運営のコミュニティサイトには、以下のメリットがあります。
・仕様やデザインなど自社でコントロールできる
既存SNSでは規約やカスタマイズ不可など縛りが多いが、専用プラットフォームを利用すれば自社のコントロール下で柔軟な運営が可能。
・高いセキュリティを実現できる
個人情報の適切な管理や参加ユーザーのプライバシーなど、必要なレベルのセキュリティを自社の裁量で実現できる。
・データを取得しやすい
行動データ・VOCの収集や基幹システムと連携させた一元管理が可能となる。
「コミュニティサイトが、具体的にどんなものか?」は、ブランドによって多種多様です。
例を挙げますので、実例を見ながらイメージしてみてください。
▼ DtoCブランド:完全栄養食 BASE FOOD(ベースフード)
⇒ 実際のサイトはこちら:『BASE FOOD Labo』
▼ テレビ局:テレビ東京
⇒ 実際のサイトはこちら:『テレ東ファン支局』
上記は個人ユーザーを対象としたコミュニティサイトですが、BtoB事業でも、コミュニティサイトを立ち上げる企業が増えています。
▼ インサイドセールスアウトソーシングサービス:スマートキャンプ
⇒ 実際のサイトはこちら:『BALES インサイドセールス キャンパス』
BtoBの場合、コミュニティサイトのURLが一般公開されていないケースも多いため、事例集にてご確認ください。こちらの事例ページ(業界 / BtoB)にまとめています。
コミュニティサイトの構築・運営方法の詳細は、別記事の「コミュニティサイトとは?基本から作り方・運営のポイントまで解説」にて解説しています。あわせてご覧ください。
3つめは「SNSでコミュニティを広げる」です。
たとえるなら、前述の「コミュニティサイト」は、ブランドのコアなファンの秘密基地のようなイメージです。
親密な関係性、限定感、独占権などがキーワードとなり、「内輪」であることが価値を持ちます。
一方、SNSは、コミュニティを外に向かって広げるうえで、有効活用したいツールです。
SNSとコミュニティサイトは、どちらか1つをやればよい、というものではなく、相互補完の関係にあります。
内向きのコミュニティサイトと、外向きのSNSを、組み合わせることで、コミュニティを原動力としたブランドの成長を実現していきましょう。
最後に、コミュニティマーケティングに取り組むにあたって留意したいポイントを3つ、お伝えします。
・ビジネス成果が表出するまで時間がかかる
・コミュニティマーケティングの専門スキルが必要となる
・企業の利益ではなくユーザーのためにコミュニティを作る
1つめは「ビジネス成果が表出するまで時間がかかる」です。
コミュニティマーケティングは、企業にとって大きなビジネス成果をもたらす施策ではありますが、取り組んですぐ利益となる類いではありません。
たとえば広告なら、出稿した当日に、大きな売上が立つこともあるでしょう。コミュニティマーケティングでは、そのようなことはありません。
中長期的な視野を持って、取り組む必要があります。
担当者は理解していても、社内で理解されていないと、途中で挫折する原因となります。
コミュニティマーケティング施策のプランニング段階で、予算やKPIについて、中長期的な時間軸での社内合意を取り付けておくことが重要です。
2つめは「コミュニティマーケティングの専門スキルが必要となる」です。
米国のマーケターのなかには、自虐的に、
「ブランドマネジャーはもういらない。必要なのは、コミュニケーションマネジャー」
という人もいます。
それほど、ユーザーとのコミュニケーションをマネジメントするには、従来のマーケティングスキルとはまた別の、新しいスキルが求められることの表れともいえるでしょう。
表面的には簡単そうでも、実際に取り組んでみると、非常に難しさを感じるマーケティング担当者が少なくありません。
「マーケティング成果を、いかに効率的に最大化するか?」
に熱心に取り組んできた人ほど、コミュニティを重視する新しいマーケティングのパラダイムシフトに、適応しにくい側面があるからです。
企業としては、新しい人材の獲得や、支援企業からのサポートも視野に入れて、リソースを確保する必要があります。
3つめは「企業の利益ではなくユーザーのためにコミュニティを作る」です。
逆説的ではありますが、企業の利益を追求してコミュニティを構築すると、利益が得られません。
コミュニティに参加するユーザーのことを考え、彼ら彼女らが求めるコミュニティを、利益度外視で構築した企業が、結果として利益を獲得しています。
コミュニティに参加するユーザーは、売り込みを求めているわけではない、という事実を、あらためて認識しましょう。
同時に、企業がコミュニティですべきことも、売り込みではありません。
ユーザーがブランドに抱いている愛情や、商品・サービスをもっと研究して使いこなしたいという欲求、自分のブランド体験を他者と共有したいという願いなど、ユーザーの純粋な気持ちに応える場として、コミュニティをとらえてください。
ビジネス成果は、あとから確実についてきます。焦らずに腰を据えて、じっくりと「ユーザーのため」を考え尽くし、実行してほしいと思います。
本記事では「コミュニティマーケティング」をテーマに解説しました。要点を簡単にまとめます。
コミュニティマーケティングの基本として押さえたいポイントは次のとおりです。
・自社ブランドの「コミュニティ」を形成するマーケティング戦略
・事例としてハーレーオーナーズグループ(H.O.G.)が有名
・今後10年で最も大きく成長する分野と予想される
コミュニティマーケティングが盛り上がる3つの理由として、以下が挙げられます。
・加速する広告離れと新規顧客獲得コストの高騰
・既存顧客の維持を重視した戦略への方向転換
・顧客が求めるブランドとの関わり方の変化
コミュニティマーケティングによって期待できる成果は次のとおりです。
・マーケティングROI(投資利益率)の向上
・顧客ロイヤルティの向上
・良質な新規顧客の獲得
・希少な行動データやVOCの獲得
コミュニティマーケティング 実践のポイントとして、以下をご紹介しました。
・オーガニックコミュニティのサポートをする
・企業運営のコミュニティサイトを構築する
・SNSでコミュニティを広げる
コミュニティマーケティングに取り組む際、注意したいポイントはこちらです。
・ビジネス成果が表出するまで時間がかかる
・コミュニティマーケティングの専門スキルが必要となる
・企業の利益ではなくユーザーのためにコミュニティを作る
これから、日本国内でも「ブランドごとにコミュニティがあるのが当たり前」の時代がくると予想されます。
コミュニティには、労力を注いで形成するに値する、大きな価値があります。
遅れをとって、コミュニティを求める自社の顧客に歯がゆい思いをさせないよう、早めに準備を進めていきましょう。
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